かがりじゅん

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連詩「香水」

「香水」かがりじゅん&らぴ雑踏の中ふと立ち止まる懐かしい記憶が蘇る鼻腔をくすぐるその香りは切ないような甘いようなそれは確かな暖かさを持って脳を刺激する今はもう思い出の中でしか感じられない腕の感触思わずその腕を掴みたくなった指先に触れるものもないのにあんな終わり方をしたのに愛しさを覚えるその香り無意識に口から溢れるあなたの名前人混みの中に吸い込まれていく音にすらならないまま消えていく始まりのきっかけなど無かった気づいた時にはそうなっていて甘酸っぱい関係は甘いひと時に変わっていったあなたからもらった初めての味はずっと忘れないいつから我慢し始めたんだろういつから壊れ始めたんだろう今となってはもうどうでもいいはずなのに鮮やかな一瞬を思い出してしまった愛しい香りと甘い思い出騒がしい人混みの中に戻る淡い幸せの匂いがたち消えていく暖かさの落差に頭がくらくらする揮発した思い出の後味はいつだってほろ苦い鮮やかな視界がモノクロに戻る夢みがちだったあの頃はもうどこにもない今はただ流れに身をまかす自分はどこに向かうのだろう重い足を前に出して歩き出す歩くたびにスーツから湧き上がる匂いが鼻をくすぐる靴裏からアスファルトの熱が伝わるビルの窓はギラついて刺々しい言葉ばかりを耳が拾うすべてを洗い流したい自分の匂いもあの匂いの記憶もなにもかも消し去ってしまえたら新しい香りを纏えるだろうか嫌いな自分を塗り替えてくれるような色誰もを惹きつけるような魅力もしかしたら私はあの頃からずっとそれを求めていたのかもしれないきっとこれからもあの匂いを探してる